界面活性剤ってそもそも何?
洗濯用洗剤や台所用洗剤の商品ラベルを見ると、
成分表示欄に「界面活性剤 ◯◯%」と記載されています。
この「界面活性剤」は洗剤の主成分であり、多くの方が耳にしたことがあると思います。
でも界面活性剤が一体どういうものであるか、を把握している方は、
私の周りでは そう多くない印象です。
今回は、界面活性剤とは何か?や界面活性剤の特徴について触れてみます。
界面活性剤とは?
界面活性剤は分子内に、
水になじみやすい部分「親水基」と、
油になじみやすい部分「親油基(疎水基)」を持つ物質であり、
界面(物質が互いに接する境界面)に作用する物質です。
界面の性質を著しく変える性質のことを界面活性といいます。
この性質を示す化合物であるため、総称として界面活性剤と呼ばれています。
界面活性剤の2つの働き
界面活性剤には、
・界面張力を低下させる働き
・水分と油分を混ざり合わせる働き
と2つの働きが備わっています。
この2つの働きが界面の性質を著しく変えて、
その結果として汚れを落とすカラクリを生み出しています。
カラクリはさらに、浸透作用・乳化(可溶化)作用・分散作用という作用に分けられます。
界面張力を低下させる働き
界面
物理化学の用語で、
気体・液体・固体が互いに接する境界面のことを「界面」といいます。
馴染みある液体の例を挙げると、チューハイや水割りを作る時に、
アルコールに水を入れてバースプーンやマドラーなどでかき混ぜると、
きれいに混ざり合って意図するお酒が出来上がります。
でも、仮にそのグラスに油を入れてかき混ぜると、
今度は混じり合わずに グラスの上方には油だけの層、
その下方にアルコールと水の層と二手に分かれます。
この二つの物質の境目が「界面」です。
界面張力
界面に接している物質には、その物質の分子同士で互いに引き合う力が発生しています。
例えばグラスに水を満たしたときに溢れそうになっても なかなか水が溢れません。
これは水の分子が分子間力という分子が互いに凝集しようとする力によって、
できるだけ表面積を縮めようとするために起こります。
この縮めようとする力のことを界面張力といいます。
ウール製の衣服を自宅で洗濯するときにウールを水に浸しても、
衣服(繊維束)の中に水がなかなか入っていかない様子を見たことがありますか?
これは上述した界面張力が強く働いているために起こる現象です。
浸透作用
界面活性剤には、この界面張力を低下させる働きがあります。
界面活性剤が働くと界面張力が低下して、
ウール繊維や化学繊維、プラスチック製品など、
水をはじくような素材でも水に濡れるようにします。
これを「浸透作用」といいます。
この浸透作用は汚れに対して とても有効です。
水だけでは浸透できない汚れであっても、
水に界面活性剤(石けん・合成洗剤)を加えると簡単に汚れに浸透できるようになります。
水分と油分を混ざり合わせる働き
水と油は、ことわざが示す通りに正反対の性質で互いには決して混ざり合いません。
一方で、界面活性剤は 水と油の両方の性質を併せ持っており、
水と油に界面活性剤を加えると、水と油が見事に混ざり合います。
親水基と親油基(疎水基)
界面活性剤は単一の分子の中に、
水になじみやすい「親水基」と、
油になじみやすい「親油基(疎水基)」の2つの部分を併せ持っています。
この2つは単一の分子の中で分かれています。
水だけが入っているバケツに界面活性剤を入れると、
分子の「親水基」部分はバケツの中の水分子の方に向かって安定します。
逆に「親油基(疎水基)」部分は水分子と接すると不安定になります。
「親油基(疎水基)」はその名の通り、油の性質なので水とは反発し合うからです。
そのため「親油基(疎水基)」部分は水を避けてバケツ上方の水の表面へ移動します。
そうすると「親油基(疎水基)」部分を水ではない空気と接して安定します。
界面活性剤とシャボン玉
この動きは、水に石鹸(界面活性剤)を入れるとシャボン玉を作れる理屈でもあります。
水と空気の境界面を界面活性剤の膜で包んだような構造になるため、
安定してシャボン玉を形成することができます。
乳化作用と可溶化作用
もしもバケツの中に水だけじゃなくて油汚れがあれば、
界面活性剤の分子は水と油汚れの境界面に移動して、
「親水基」が水分子と接し「親油基(疎水基)」は油汚れと接して安定します。
このように界面活性剤は「水と油」や「水と空気」「水と繊維」など、
反発し合う異なる物質の境界面に移動する特徴があります。
この特徴を「吸着」といいます。
石鹸などの界面活性剤が油汚れを落とすのは、
界面活性剤を適量入れると「親油基(疎水基)」が油汚れを囲みながら、
同時に親水基が水分子も囲んで吸着して安定するためです。
このときに親水基を外側に、親油基(疎水基)を内側にした、
ミセルと呼ばれる粒子を形成します。
バケツの中で、大量のミセルは全体的に均一化した物理的状態を保ちます。
この状態をコロイドまたは「膠質(こうしつ)」といいます。
水と油のように、互いに混ざり合わない物質でも、
界面活性剤によってコロイドを形成し、分離せずに白濁して均一になります。
その結果として水と油が均一に混ざり合うことができます。
この動きを「乳化作用」といいます。
またミセルの状態によっては、混じり合った液体の見た目が、
白濁ではなくて、無色透明あるいは青白い液体となる場合があります。
これを「可溶化作用」といいます。
乳化作用が油汚れに効く
洗剤(界面活性剤)を使って使ったお皿を洗うときには、
この乳化作用や可溶化作用が働いて、
お皿の油汚れを水中に拡散し洗い流せる状態に変化させます。
牛乳にも界面活性剤の働きがある
実は、牛乳も天然の界面活性剤(たんぱく質)の働きを保持しているため、
水と脂肪が混ざり合った状態を保っています。
分散作用
界面活性剤は油のような液体だけでなく、
スス(煤)汚れのような個体や粒子状の成分も界面活性剤の分子が取り囲み、
煤が水中で混じり合って安定する作用があります。
これを「分散作用」といいます。
水と油のような、液体+液体の組み合わせでできたコロイドでは乳化作用(または可溶化作用)が働き、
煤と水のような、固体+液体の組み合わせでできたコロイドでは分散作用が働きます。
分散作用が起こるのは、コロイド同士が互いに電気的に反発するからです。
分散作用が汚れを洗い流す
この分散作用が、対象素材から固着した汚れを引き剥がし、
水中に分散させて洗い流せる状態に変化させます。
このようにして汚れを取り除いてキレイにすることができます。
化粧品やインクにも活かされている分散作用
書道で使う墨汁には煤が水の中で安定して混じり合っています。
リキッドタイプの口紅や、印刷の時に使うインクなども、
本来は非水溶性の物質なのに水の中に溶け込んで安定しています。
これも界面活性剤の「分散作用」によるものです。
総合力による再付着防止作用
台所で使ったフライパンや食器を洗剤(界面活性剤)を使って洗うと、
界面活性剤は水と一緒に油汚れに浸透・吸着して、さらに乳化作用が働き、
並行してフライパンの素材にも浸透・吸着します。
そうすると、フライパンと油汚れが別々に引き離されます。
このときに界面活性剤は吸着した個々が互いに反発する力を生み出します(分散作用)。
そのため、一度引き離されたフライパンと油汚れが再び付着することや、
別々の油汚れが互いに付着し合うことも防ぎます。
このように界面活性剤の浸透作用+乳化作用+分散作用が総合的に働いて、
水の中に分散している汚れが、フライパンに再付着することを防ぎます。
これを再付着防止作用といいます。
再付着防止の作用もあるため、汚れを落としてキレイにする力が保たれています。
まとめ
界面活性剤が保持している
浸透作用/乳化作用(可溶化作用)/分散作用
という様々な作用によって汚れを洗い流し、
またこれらの作用が総合的に働くことで汚れの再付着を防止してくれます。
名称 | 特徴 |
---|---|
浸透作用 | 水の界面張力を低下させて、 化学繊維やプラスチックなど、 水を弾くような素材を水になじんで、 水に濡れるようにします。 |
乳化作用 可溶化作用 | 油と水のように本来は混ざらない2つの液体を、 白濁して均一に混ざった状態にします。 ※条件によっては白濁ではなく、 透明な溶液になり、 この現象を「可溶化」と呼んでいます。 これらによって油汚れを水中に拡散し、 洗い流せる状態にします。 |
分散作用 | ススのような水になじみにくい物質を取り囲み、 互いに反発し合う細かい粒子にして、 水中に分散させて、 安定的に水と混じり合った状態にします。 |
再付着防止作用 | 浸透作用、乳化作用(可溶化作用)、 分散作用が総合的に働いて、 水の中に分散している汚れが、 キレイにしたい対象素材に、 再び付着することを防ぎます。 |
このように界面活性剤はとても便利な作用をしてくれます。
ただ便利な反面、界面活性剤として合成洗剤を多用すると、
環境への影響も大きくなります。
生分解されて自然環境に還ることができる石けんを、
界面活性剤として活用することが望ましいのですが、
現実はそうではなく、
多くの方が高温・高圧によって化学合成された界面活性剤(合成洗剤)を使っています。
次回以降に合成洗剤について触れてみます。
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