フロッシュは自然にやさしいの?
洗剤の安全性を見極める基準
当社では洗剤の安全性を判断するためにPRTR法を基準として使用しています。
PRTR法における監視対象の化学物質が入っている洗剤は、
「使えない」と候補から除外して、
PRTR法における監視対象の化学物質は何も含有していない洗剤は、
候補に入ってくるという具合です。
皆さんはPRTRというワードをお聞きになったことはありますか?
はじめにPRTRとは何?という説明から始めてみます。
PRTRとは?
PRTRは、
Pollutant Release and Transfer Register (環境汚染物質 排出 ・ 移動 登録 )
の略です。
これまで市民がほとんど目にすることのなかった化学物質の排出に関する情報を、
国が1 年ごとにまとめて公表する制度です。
法律としての正式名称は、
「特定化学物質の環境への排出量の把握等及び管理の改善の促進に関する法律」です。
(※略称:化学物質管理把握促進法)
日本だけでなくアメリカ、カナダ、オランダ、イギリスなど諸外国でも導入が進んでいます。
日本では1999年7月に公布され、2001年4月に施行されました。
この法律に基づいて、対象化学物質や、
届出をしなければならない事業者などが決められており、
毎年どんな対象化学物質が、どれだけ排出されているかを誰でも知ることができます。
では、この「対象化学物質」とは何でしょうか?
どんな基準で対象となっているのか?
具体的にどんな化学物質が対象なのか?が気になります。
PRTR法の対象化学物質とは?
対象となる化学物質は、
人の健康や生態系に有害なおそれがあるなどの性状を有するものです。
PRTR 法の化学物質は、その物質が環境中にどれくらい存在しているかによって
「第一種指定化学 物質」と「第二種指定化学物質」の2つに分けられています。
環境中に多く存在しているほうが「第 一種指定化学物質」で462物質あります。
あまり多くは存在しないと見込まれるものが「第二種指定化学物質」で100物質あります。
また何万種類もある化学物質の中で、どの物質を PRTRの対象にするかは、
「PRTR対象物質等専門委員会」によって決定されています。
この委員会において、有害性についての国際的な評価や生産量などを踏まえ、
専門家の意見を聴いて、人や生態系に有害な恐れありと判断された物質が、
「第一種指定物質」や「第二種指定化学物質」に指定されて、
移動や排出が監視されることになります。
第一種指定化学物質
環境中に広く継続的に存在し、次のいずれかの有害性の条件に当てはまるもの
・人の健康や生態系に悪影響を及ぼすおそれがあるもの ・その物質自体は人の健康や生態系に悪影響を及ぼすおそれがなくても、 環境の中に排出された後で化学変化を起こし、 容易に有害な化学物質を生成するもの ・オゾン層を破壊するおそれがあるもの
第二種指定化学物質
第一種と同じ有害性の条件に当てはまる物質で、
製造量、使用量などが増加した場合には、 環境中に広く継続的に存在することとなることが見込まれる物質
期待されるPRTR法の効果
この法律によって、自然環境や人の健康の保護のために最適化が図られて、
行政施策や事業者の自主的取り組みが促進されたり、 私たち市民における化学物質による環境リスクへの理解を深めることが期待されています。
監視・規制対象の合成界面活性剤
一般的な洗剤にも入っている合成界面活性剤の中には、
第1種有害化学物質に指定されたものがあります。
以下の9種の合成界面活性剤が第1種有害化学物質として規制されています。
項番 | 物質名称 | 用途 |
---|---|---|
1 | 直鎖アルキルベンゼンスルホン酸及び その塩 | 洗濯用・台所用合成洗剤 |
2 | N,N-ジメチルドデシルアミン=N-オキシド/アルキルアミンオキシド | 台所用合成洗剤 |
3 | 2-スルホヘキサデカン酸-1-メチルエステルナトリウム酸/α-スルホ脂肪酸メチルエステルナトリウム | 洗濯用合成洗剤 |
4 | ドデシル硫酸ナトリウム/ラウリル硫酸ナトリウム | 洗濯用・台所用合成洗剤 |
5 | ヘキサデシルトリメチルアンモニウム=クロリド/塩化アルキルトリメチルアンモニウム | 柔軟剤 |
6 | ポリ (オキシエチレン)=アルキルエーテル | 洗濯用・台所用・住居用合成洗剤 |
7 | ポリ (オキシエチレン)=オクチルフェニルエーテル | 業務用合成洗剤 |
8 | ポリ (オキシエチレン)=ドデシルエーテル硫酸エステルナトリウム | 洗濯用・台所用・住居用合成洗剤 |
9 | ポリ (オキシエチレン)=ノニルフェニルエーテル | 業務用合成洗剤 |
フロッシュ の合成界面活性剤
「ドイツ生まれ、自然思いの洗剤です。」という広告メッセージで
訴求している有名な台所用洗剤「フロッシュ 」を一例としてチェックしてみます。
製品パッケージには以下のような成分が表示されています。
フロッシュ 食器用洗剤〈アロエヴェラ〉
液性 | 弱酸性 |
---|---|
成分 | 界面活性剤(9%アルキルエーテル硫酸エステルナトリウム)、安定化剤 |
このアルキルエーテル硫酸エステルナトリウムは、
高級アルコール系(陰イオン)の合成界面活性剤です。
フロッシュ だけでなく、いろんなメジャーな洗剤に使われています。
家庭用品品質表示法という法律に基づいて成分表示されている、
「アルキルエーテル硫酸エステルナトリウム」は、
PRTR法においては、
「ポリ(オキシエチレン)=ドデシルエーテル硫酸エステルナトリウム」と表記されます。
実は、アルキルエーテル硫酸エステルナトリウムと
ポリ(オキシエチレン)=ドデシルエーテル硫酸エステルナトリウムは、同一の化学物質です。
ということは、
フロッシュ に使われているアルキルエーテル硫酸エステルナトリウムは、
PRTR法における第一種指定物質であることが分かります。
監視対象の第一種指定物質を使って製造された洗剤なのに、
「自然思い〜」とアピールしているので、ちょっと??となります。
有害性試験の結果
経済産業省所管の独立行政法人として、
独立行政法人製品評価技術基盤機構
(National Institute of Technology and Evaluation)があります。
※略称として、NITE(ナイト)と呼ばれています。
PRTR法に関しては、
事業者が届け出た化学物質の排出量データの集計などの業務を行っており、
化学物質の物性・安全性などのデータのデータベースの公開も行っています。
NITEが公開しているデータから、
フロッシュ に入っているアルキルエーテル硫酸エステルナトリウムの情報をチェクしてみます。
一般情報
項目 | 情報 |
CAS登録番号 | 9004-82-4 |
名称 | ポリ(オキシエチレン)=ドデシルエーテル硫酸エステルナトリウム |
環境に対する有害性
危険有害性項目 | 分類結果 | 危険有害性情報 | 分類根拠・問題点 | 分類実施年度 |
Hコード | ||||
水生環境有害性 短期(急性) |
区分2 | H401 | 甲殻類(ネコゼミジンコ属の一種)の48時間EC50 = 3.12mg/L(AQUIRE, 2008)から区分2とした。 | 平成20年度(2008年度) |
公開データから、
フロッシュ に入っているアルキルエーテル硫酸エステルナトリウムは
区分2に分類されていることが分かります。
分類の根拠は、
甲殻類(ネコゼミジンコ属の一種)の48時間EC50 = 3.12mg/L、
からと表記されています。
PRTRにおける生態クラス分けは、以下の基準で行われています。
クラス | NOEC | EC50 | EU* |
1 | 0.1mg/l 以下 | 1mg/l 以下 | R50 |
2 | 1 mg/l 以下 | 10mg/l以下 | R51 |
NOECとは、No Observed Effect Concentration (無影響濃度)の略です。
投与群と対照群との間でいかなる影響の頻度または、
強度が統計学的または生物学的に 有意に増加しない投与濃度。
EC50とは、Median Effect Concentration (半数影響濃度)の略です。
環境中の生物を用いた有害性試験で、
1 群の実験生物の 50%に影響を与えると算定される濃度。
影響指標として生長、遊泳、繁殖、行動、症状などがあげられる。
水生生物に毒性
有害性試験の結果、
甲殻類(ネコゼミジンコ属の一種)の48時間EC50 = 3.12mg/Lだったので、
区分2に分類されています。
公開データは、「GHS」という化学品の危険有害性を世界的に統一された、
一定の基準に従って分類されています。
GHSに基づく危険有害性情報(Hコード)は、H401です。
アルキルエーテル硫酸エステルナトリウムは、
PRTR法において第一種指定物質に指定され、
水生生物に対する毒性や生態系に有害なおそれがある化学物質として
監視・規制の対象となっています。
フロッシュ の性状は弱アルカリ性ではなく、
人の肌と同じ弱酸性にまとめられているので、
手肌にはきっと優しい製品です。
また、合成界面活性剤の比率も9%に薄めているので、
なるべく自然環境負荷を低くしているように感じられます。
世の中の台所用洗剤がフロッシュだけなら、
アルキルエーテル硫酸エステルナトリウムの排出量をコントロールできて、
生態への悪影響も抑制できるかもしれないですが、
当然、台所用洗剤は他にもたくさん存在していて、
多くの洗剤でアルキルエーテル硫酸エステルナトリウムが使用されています。
このような第一種指定物質の自然環境への排出が大量に続くと、
生態系にとって有害となるのでは?と心配になります。
もちろん絶対そうなるとは断言できません。
でも、PRTR法において第一種指定物質に指定されていることを鑑みると、
もっと環境リスクへの理解を深めた上で、
使用するかどうかを検討してみたいと感じます。
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